冬の花火/渡辺 淳一
 「失楽園」などのベストセラーを書いている渡辺氏の作品は、読んだことありませんでした。帯広出身の歌人・中城ふみ子に興味をもって、薦められた本が「冬の花火」なのですが、一種独特の渡辺氏のまとわりつくような文体が好きになれませんでした。なんか、男が女性を見下しているような・・。

 1922年(T11)に帯広の呉服屋さんの両親のもとで生まれたふみ子は、高校までを帯広で過ごし、東京家政学院に入り、卒業後、札幌の中城氏と結婚をするのですが、中城氏が業者との癒着からエリートの道を転がり落ち、高校教師になったものの、金融業に手を出して失敗し、失職することになります。結局、29才で離婚という形になったのですが、「辛夷(こぶし」短歌会に入ったふみ子は、斬新な歌をつくっていくことになります。最初に乳ガンの手術をしたのは、1953年(S28)、ふみ子31才の時でした。

 ふみ子研究の第一人者である菱川善夫(北海学園大教授)は、「鑑賞 中城ふみ子の秀歌」(短歌新聞社)で、ふみ子の作品には2つのテーマが潜んでいる、としています。それは、相聞(歌)と癌であると。

 ふみ子は結婚の破綻でいくつかの恋を経験することになるのですが、その恋心を大胆に歌にのせるというのは、当時の歌壇ではとてもセンセーショナルだったのでしょう。

 この本は、ふみ子を取りまいている人々が実名で書かれているということで、かなりの論議があったと、聞いています。ふみ子は1954年、32才の若さで亡くなってしまうのですが、ふみ子と関わりのあった方々は、まだご健在で、きっと、当時の想い出を大事にされていることでしょう。そのような方々への配慮がない、というのも、渡辺氏らしいなあと、言えますが。

 今年、2000年5月に、札幌在住の主婦、佐々木啓子さんという方が、10年のふみ子研究を経て、「中城ふみ子資料目録」という本(目録)を自費で出版されました。さっそく短歌新聞社からは、絶賛の記事が出され、私あてへ、佐々木さんが目録を送ってくださいました。佐々木さんの、ふみ子への熱い思いがみられ、私としても目頭が熱くなる思いがしました。

 ふみ子の歌集は「乳房喪失」と「花の原型」しか世に出ていないのですが、あらためてふみ子の身を削るような激しく、それでいて情熱的な歌を読みたくなってきます。